NGOミャンマー駐在員のハリキリノート

ミャンマーのタウンジーという町で、国際協力をやっています。NGO活動、ミャンマーあれこれ、国際結婚育児ネタなど

パオ族を知って、カックー遺跡を楽しみつくそう!

ミンガラーバー。

ミャンマー在住10年目、鈴木亜香里です。

 

ミャンマーは多民族国家で、135もの民族がいると言われています。が、実際はもっといたりします。世界一民族が多いと言う人もいるほどです(ホンマか?)。

 

その中でも、私が活動している南シャン州にいっぱい住んでいるのが「パオ族」です。カックー遺跡があるのも、パオ族の地域なんです。もしカックーに観光されるなら、パオ族のことを知っているともっと楽しめるはず!ということで、今日はパオ族について書きたいと思います。

 

ミャンマーで最も素朴な民族「パオ族」とは

Pa-O、Pa-Oh、PaO‘などと表記されます。日本語では「パオ」とか「ポオー」とも聞こえます。

 

人口は180万人~200万人くらい。シャン州では2番目に人口が多い民族です。シャン州以外の場所にもたくさん住んでいます。シャン州の州都であるタウンジーには、本当にたくさんのパオ族の人たちが住んでいます。

 

彼らの印象は、山の上に住む少数民族。争いを好まない敬虔な仏教徒です。「ミャンマーの中でも、最も素朴な民族」と言われるくらい、山の上でひっそりと暮らす人たちという印象。

 

真っ黒な服と、頭にはバスタオル!

パオ族で印象的なのは、その民族衣装。黒い布の重ね着はまだいいのですが、頭にバスタオルを巻くのです。

パオ族の民族衣装を着ている女性

パオ服を着てみました

彼らのルーツは、「仙人の父親と竜の化身の母親」。カックーパゴダには、彼らのご先祖様の像が飾られています。頭のバスタオルは、彼らの先祖である仙人と竜を表現したものだそう。男性は仙人風に、女性は竜の頭っぽくバスタオルを巻きます。

 

こちらの記事に面白く書いてありますので、ぜひ読んでみてください。

locotabi.jp

 

敬虔な仏教徒が多い

パオ族の仏教の聖地、カックー遺跡が有名です。

www.ngomyanmar.com

 

村にはだいたい僧院があって、僧侶がいて、村の人たちから尊敬されています。満月の日、雨安居のとき、新年の水祭り期間などは、多くの村人が僧院に集まって過ごします。「仏教行事のときには僧院に集まらなければならない」という掟を定めている村が多いです。

 

私たちNGOが何か研修をやったり、プロジェクトをやるときも、村の僧侶を通すと話がスムーズに進みます。また、会議をしたり研修をしたりするために集まる場所としても、僧院を貸してもらうことがよくあります。

 

11月の満月は皆でパレード 

毎年11月の満月の日は、ダザウンモンという仏教的に大事なお祭りの日です。タウンジーでは気球祭りが開催されます。パオ族は、満月の日にタウンジーの町を歩くパレードを行います。こちらの記事の下のほうに書いてあります。

 

ものすごい人数をパレードさせる組織力・団結力がすさまじい!

 

3月の満月はパオ族のナショナルデー

3月の満月は、タバウン満月。こちらも仏教的に大事なお祭りの日です。そして、この日はパオ族のナショナルデー!ということで、お祭り会場に舞台が建設され、セレモニーが行われます。

 

私の所属する「地球市民の会」は、パオ族の地域で開発事業を行っているため、いつもVIP扱いです。ディナーに招待してもらえます☆

 

昼間はパレードでタウンジーの町を行進します。やたらと行進好きな民族です。

道を歩く人たちと、差し入れを配る人

昼間に行進するパオ族。行進する人に差し入れする人

 

タバウン満月はカックーパゴダのお祭りの日でもあるので、カックーパゴダもめちゃくちゃにぎわうそうです。

 

パオ語

パオ族は、ほぼ全員バイリンガル

パオ族は、パオ語を話します。学校ではミャンマー語を習うので、ほとんどの人がミャンマー語も話しますが、家や村ではパオ語が中心。年配の方の中には、パオ語しかわからないという方もいらっしゃいます。

 

パオ語は、文字はミャンマー文字と似ています。ミャンマー文字から借りて作られたのでしょう。でも、言語的には全く違います。

 

パオ語は、英語や中国語のように、主語ー述語ー目的語と続きます。

ミャンマー語は、日本語と同じように、主語ー目的語ー述語の順なので、語順すら違います。

また、ミャンマー語が声調が3つなのに対して、パオ語は声調が6つあります。

 

ミャンマー語から借りている語彙がかなりあるようで、慣れてくると単語だけわかります。何について話しているかくらいは聞き取れるようになってきます。

 

村でパオ族と会議をすると、話が込み合ってくると話しなれたパオ語になります。私はわからないので、パオ族のスタッフと一緒に行って、話の内容を教えてもらうようにしています。

 

覚えよう!パオ語の挨拶

日本語:ミャンマー語:パオ語の順に書きます。

私が知っているパオ語はこれくらいですが、少しでも話すと喜んでもらえます。

 

こんにちは:ミンガラーバー:マンガラーディアーオー

 

ありがとう:チェーズーティンバーデー:チェーズータンガーオー

 

ご飯食べますか?:タミンサーマラー:アム ティェン

 

お茶を飲んでください:イエヌエジャン タウパー:ワー ニンティー

 

はい:ホッケ:ムエ

 

いいえ:マホゥップー:ムエター

 

農村で自給自足的な暮らし

パオ族の主な生業は農業です。じゃがいも、にんにく、唐辛子、トウモロコシ、大豆、米、お茶などをたくさん作っています。最近はアボガドやコーヒーなども増えてきました。

 

現金収入を得るため以外にも、家庭菜園にたくさんの野菜を植えていて、自給自足的な暮らしをしている人が多いです。

 

「夜は家で何して過ごすの?」と聞くと「お茶飲んでる」という答えが返ってくるくらい、お茶好きな民族でもあります。山に住んでいるので、お茶の生産が盛んで、自分の家で作ったお茶をいつも飲んでいます。

 

かなり山奥のほうでは、ケシを作っている人たちもまだまだいます。ミャンマー政府もパオ族の組織も、ケシ栽培をやめさせるように動いていますが、「山奥なのでケシを育てないと生活していけない」ために、なかなか無くなりません。ケシは、軽くて値段が高いので、農作物の輸送が大変な地域にはかなり良い収入になるんですよね。

 

パオ族についての研究 

パオ族の農村の教育支援について書かれた論文があります。通訳など、私も少しお手伝いさせていただきました。ネットで読むことができますので、詳しく知りたい方はぜひ。

 

ミャンマーの村落における教育支援の可能性

─パオ族の「スクール・コミッティ・アプローチ」─

近田 真知子

https://core.ac.uk/download/pdf/230203389.pdf

  

パオ族のすごいところ

パオ族は、ただただ素朴に、仏教を信仰しながら農業をしているというだけではないんです。ものすごいパワーを持っている民族でもあります。

 

天皇のような存在がいる

お父さんと呼ばれ、尊敬される

パオ族のカリスマ、すごい人、天皇陛下のようなものすごい存在。それが、アバー・ウー・アウン・カム・ティです。パオ族の家にお邪魔すると、ほぼ100%、この人の写真が飾ってあります。アバーというのは「お父さん」という意味の敬称。パオ族皆から尊敬され、「お父さん、お父さん」と慕われる存在の方です。

パオ族のカリスマ指導者と記念写真

スタディーツアー中にアバーの家にお邪魔しました

アバーはもう高齢で足も悪いので、今は引退しています。でも、パオ族のセレモニーなどがあると出席されます。地球市民の会が作った給水施設の落成式にも来てくれて、嬉しかったなぁ。本当にオーラがあって、すごい方です。

 

パオ族の発展のために停戦

アバーがすごいのは、民族のことを思って、停戦を選択したことです。1990年ごろまで、パオ族は独立を目指して、ミャンマー政府軍と内戦を繰り返していました。そのころは、パオの地域はゲリラ兵が潜むジャングルで、普通の人は怖がって入ることができなかったと言います。もちろん、カックーパゴダにも誰も行けませんでした。

 

 そのころ、パオ族の指導者だったアバーは「戦争を続けても、パオ族のためにならない。民族の発展のためには教育が必要だ」と言って、内戦をやめたそうです。そして、ミャンマー政府と協力して、平和の中で発展していく道を選びました。

 

独立は、民族の悲願です。その中で、「パオ族の本当の幸せは何か」と冷静に考えて停戦を選択することは、なかなかできることではありません。おそらく、停戦に反対して戦いを続けたかった勢力もいたはず・・・。それを説得して、停戦を選択したアバーの判断、リーダーシップの素晴らしいこと!

 

パオの教育レベルがすごい

学校の数が多い

アバーが「教育が大事だ」と言い続けているおかげで、パオ族の親は子供の教育に熱心です。それは、学校の数にも表れています。

 

ミャンマー政府は財政難のため、すべての村に学校を作ることができていません。パオ族の指導者層は、「政府が作れないなら、村が自分たちで学校を作りなさい」と村に指導をしています。「先生が子供にしっかりと教えたくなるように、村が先生を全力でサポートしなさい」とも指導をしています。

 

そのおかげで、パオ族の地域の学校数は充実してきています。南シャン州には、他の民族もたくさんいますが、他の民族の住む地域と比べて、パオ族地域の学校数は明らかに多いと感じます。

 

少数民族の教師を育成する大学

少数民族の教師を育成するための専門大学もパオ族は作っています。学校の先生はミャンマー全土から派遣されてくるのですが、村の生活に慣れなかったり、少数民族語がわからなくて困ることが多いです。

 

そのため、地域の発展のためには、地元出身の先生がいたほうが良いという考えで、パオ族を中心とした少数民族の教師を育成する大学をパオ族は作ってしまいました。ここで教師資格をとった先生は、シャン州内の学校に派遣されます。パオ語などの少数民族語がわかり、村での生活に慣れていて、地元のために尽くすという志がある先生を育成しようという取り組みです。

 

パオ族は自治区を持っている 

2010年の選挙のあと、パオ族は自治区をもらいました。シャン州のホッポン、シーサイン、ピンラウンという3つのタウンシップが、パオ自治区となっています。パオ族が多くすむ地域です。

 

他に自治区をもらった民族は、ワ族、コーカン族、ナガ族などの、ミャンマー政府とかなり仲が悪かったり、遠すぎて誰も行けないようなゲリラ政府化している民族たち。政府もどうにもならないので、仕方ないから自治区にした感があります。

 

パオ族やダヌ族、パラウン族も自治区をもらいましたが、こちらは平和でやる気のある民族という印象。自分たちでどんどん発展していけるので、自治区として頑張ってやってくださいということなのか。ミャンマー政府も、「彼らに任せておいて大丈夫」と判断しているということなのでしょう。

 

パオ自治区には、シャン族などの他の民族もいろいろ住んでいます。パオ自治区だからと言ってパオ族だけを優先するのではなく、他の少数民族にも配慮しながら開発を進めている印象です。

 

パオ族と地球市民の会

「支援はいらない」と話すアバー

地球市民の会がミャンマーで活動を開始したのは、2003年です。活動を開始する前に、代表や理事たちが下見に来ています。アバーに会って話をしました。

 

「どんな支援が必要ですか?」と日本側の質問に対して、アバーの答えは、

「食べ物を与えるより、食べ物の作り方や調理方法を教えてほしい。そうでないと、私たちの民族は、ただ口を開けて待っているだけの人になってしまうから」

 という回答でした。

 

「あれをしてほしい」「これが欲しい」などの回答が来ると思っていたら、「支援はしないでほしい」という回答が来たのです。これに、地球市民の会の代表は感激し、「こんな素晴らしいリーダーがいるなら、プロジェクトは上手くいくに違いない!」と思い、ミャンマーのこの地で事業を始めることに決めたそうです。

 

「与えあい、ともに学ぶ」

地球市民の会のミャンマー事業のスローガンは「与えあい、ともに学ぶ」こと。ミャンマーの人々、特にパオの人々は、経済的には貧しいかもしれませんが、心の豊かさを持っています。

 

日本人が経済的発展と共にどこかに置き忘れてしまったものが、ミャンマーの人々から学べると感じます。日本側が一方的に与えるのではなく、「与えあい、ともに学ぶ」支援の形を、地球市民の会は目指しています。

 

私自身も、「支援してあげる」という上から目線の活動は絶対にしたくなくて、どちらかというと「仲間に入れてほしい」という気持ちで活動をしています。そのへんのことは、こっちの記事に書いてあるので読んでいただくとして。

www.ngomyanmar.com

 

「与えあい、ともに学ぶ」パートナーとして、パオ族の人たちは素晴らしいと感じることが多いです。 (まあ、むかつくことも、嫌になることもありますけどね!パオ族だって人間ですから)

 

もし、この記事を読んで、地球市民の会に興味をもってもらえたら嬉しいです。このブログにも、国際協力系の記事をいろいろ書いてあるので、ぜひ読んでみてくださいね。

webはこちら。

www.terrapeople.or.jp