ミンガラーバー(ミャンマー語でこんにちは)。
ミャンマーのシャン州に駐在して9年目、鈴木亜香里です。
前回の記事で、インレー湖の環境問題についてまとめました。
今日はその続き。環境問題に対して、どんな活動を行っているのかということを書きたいと思います。私の所属する地球市民の会の活動だけでなく、他団体や地元の人たちの取り組みも、知っている限り紹介したいと思います。
土砂流入対策
インレー湖のまわりの山々は、焼畑や煮炊き用の薪のために、どんどんハゲ山になってしまっています。土壌を支えてくれる木がないため、雨季に雨が降ると、たくさんの土砂がインレー湖に流れ込みます。
植林
植林の大切さは皆さん良く知っています。シャンの農村に住む人たちは、ほとんど全員と言ってよいほど、植林経験があります。森林局が無料で苗木を配布し、植林を推進しています。多くの村では、共有地に植林を行います。樹種は、チークが人気です。その他、タマリンドやユーカリ、オーク等、さまざまな木を植えます。
私の所属する地球市民の会でも、2007年より毎年10,000本程度の植林をずっと続けてきており、2018年までに合計119,288本の植林を行いました。緑の募金、地球環境基金、地球環境日本基金などの助成金をいただき、地域住民と協力して植林を行っています。その後も村が自主的に植林を続けられるように、育苗ナーサリーや給水設備の整備も行っています。
堰を作る
農業灌漑省が小規模な堰を作り、土砂が湖に流れ込まないように堰き止めています。村が主体となって作る、簡素な堰もいくつかあるそうです。
電化を進める
ハゲ山になる原因の一つとして、薪のために木を切ってしまうことがあります。インレー湖周辺の電化は、2013年くらい(?)から進んできました。電気があると、炊飯器や電気調理器を利用できるようになるため、木を切る量が減ります。電気がない場合は、1軒あたり、だいたい1年に20本の木が必要とのことです。400世帯ある村が電化されたとしたら、20本×400世帯=800本で、毎年800本の木が切られずに済んだということになります。電化は政府に頼らなければなりませんが、効果は非常に大きいと実感します。
村まで電気が来たとしても、家庭まで電気を導入するためには、5万円程度の導入費用が必要となります。電線やメーター設置費や、電気をひくための費用です。金額は村によって異なりますが、貧しい家庭は導入費用が払えずに電化ができません。ある村の村長さんは「貧しい家庭も電化できるように、村で支援していかなければならない。それが木の節約につながる」と話していました。ちなみに、電化したら皆が一番最初に買うものは、炊飯器だそうです。さすが、お米が大好きな国民です。
富栄養化対策
肥料や生活排水に含まれる、窒素やリンが富栄養化の原因となっています。水の中に窒素やリンが増えすぎると、植物プランクトンが増加してアオコが発生したり、ホテイアオイが大量発生することになります。
浮き畑新規造成禁止
浮き畑が増えすぎると、農薬や化学肥料の多投で水質が悪化するため、政府は新しく浮き畑を作ることを禁止しています。農家の人たちは、今すでにある浮き畑を使い続けていくことになります。
循環型農業の推進
地球市民の会が一番力を入れているのが、循環型農業の推進です。化学肥料や農薬を全く使わない農業です。インレー湖の人たちは、「浮き畑では農薬を使わないと絶対育たない」と信じ込んでしまっていますが、そんなことはないよ!というのをモデルファームを作って証明したりしています。
農家の方を対象とした循環型農業研修もたくさん実施しています。知識として学ぶ人は多いですが、実践するとなるとなかなか難しいみたいで、実践者数は少しずつしか増えません。地道な活動が必要です。
ホテイアオイで堆肥づくり
インレー湖ではホテイアオイが大変増えていて、通船障害を引き起こしています。また、ホテイアオイが浮かぶせいで、水中まで太陽の光が届かず、水中の水草が光合成をできないなどの生態系の変化も引き起こしています。ホテイアオイが腐るとヘドロ化して、湖の底に沈殿してしまいます。
そこで地球市民の会では、ホテイアオイや水草を引き揚げ、堆肥づくりを行っています。ホテイアオイは、湖の中にある栄養をたくさん吸収しているので、畑のための良い堆肥になります。作ったホテイアオイ堆肥は販売し、その売り上げをまた堆肥づくりのために使いたいと考えています。
日本の琵琶湖でも同じような取り組みが行われているみたいですが、ホテイアオイ堆肥の収益化はなかなか難しいみたいで、琵琶湖では無料配布されている模様。税金等でホテイアオイの引き揚げを行い、堆肥は無料です。ミャンマーでは税金をあてにできませんので、なんとかビジネスとしてまわしていけるようにしたい!大変ですが、挑戦しています。現在は国際協力基金の助成を受けていますが、助成期間中に体制を整えたいと思っています。
水質対策
環境調査
大学の先生と協力し、水質の調査を行っています。水質だけでなく、周辺の村で全戸インタビュー調査を行ったり、ホテルへのインタビュー調査を行うなど、多角的な調査をしています。インレー湖の環境改善のために、どうしていくのが良いのか、環境改善モデルを提案することを目的として、活動しています。こちらは、三井物産環境基金の研究助成をいただいています。
給水事業
インレー湖で生活する人にとっては、生活用水の確保が重要な問題です。昔はインレー湖の水を飲んでいたそうですが、今は大腸菌や農薬が多く含まれるため、飲用に適していません。いまだに、一部の人はインレー湖の水や、河川の水を飲用しているそうです。村へのインタビューでは、「土砂で濁らずに澄んでいればOK」「一度水タンクにためて、濁りを沈殿させてから飲んでいる」という回答がありました。沈殿させても、農薬や大腸菌は取り除けないと思うのですが・・・。
地球市民の会では、給水設備を整備しました。飲用に適した水が湧き出る泉の近くに設備を作り、たくさんの村に清潔な生活用水がいきわたるようにしています。こちらは、外務省のNGO連携無償を使用しました。
また、飲用に適したものでも、石灰分が非常に多いため、浄水器の設置も行いました。こちらは、春光会さんのご支援によるものです。
観光対策
インレー湖の環境は、観光のためにも守られなければなりません。ガイドさんやホテルが中心となって進めている環境対策についてご紹介します。
ゴミ拾い、ゴミを減らす
ガイドさんが中心となり、定期的にゴミ拾い活動を行っているそうです。やはり、外国人観光客と日常的に接するガイドさんは、外国人から「ゴミがあって汚い!」といつも言われているのでしょう。また、ニャウンシュエにある日本人経営の旅行会社HOME Myanmarでも、月に1回「Clean Inle」というゴミ拾いイベントを開催しています。
観光客向けのレストランやホテルにインタビューしたところ、飲みものの缶やビン、ペットボトルはリサイクルすることがほとんどでした。これらはリサイクルに出すと、ほんの少額ですがお金をもらえます。また、残飯は犬や豚にあげるところが多かったです。犬や豚を飼っている人が残飯を集めにくるそうです。
「Refile Water」をやっているレストラン、ホテルも増えてきています。観光客が新しいペットボトルをどんどん買わなくてすむよう、飲料水を補給できるようにしてあります。ホテルの部屋に設置する水も、ペットボトルではなく、ビンに詰めた水を提供するところも増えてきています。
プラスチックごみを減らすために、竹製のストローや、分解可能な持ち帰り容器を使用するなどの取り組みも、一部で始まっています。持ち帰り容器は、普通のものなら無料、分解可能なものは500ksプラスなどで提供するお店が多いようです。
ホテルの排水処理
ホテルは、水をたくさん使います。掃除や洗濯、トイレ等、たくさんの水が排水されることになります。陸上のホテルでは、まだまだ対策が不十分なところが多いです。湖上ホテルは高級ホテルが多いこともあり、排水の対策は比較的しっかりなされているようです。
一部の高級ホテルでは、連泊のお客さんにシーツ交換をしないように呼びかけているそうです。
環境教育
インレー湖の環境問題について、たくさんの人に知ってもらう必要があると考えています。当会でも、環境研修をこれまでに88回開催し、3,207人に環境の大切さや木の大切さを訴えてきました。インレー湖の人たちを中心に研修を開催してきましたが、もっと山の上や町の人に対する研修が必要かなと考えています。
まとめ:いろんな対策はとられているが、まだまだ不十分!
駆け足で見てきましたが、上述のように、さまざまな動きが出てきています。政府、NGO、観光関係者、村などのさまざまなセクターが、それぞれできることを実践しています。JICAも、土砂流入対策として、山の上に住む住民向けの対策をとろうとしているところだそうです。
しかし、まだまだぜんぜん足りません。日本の琵琶湖の浄化のためには、毎年何十億円という予算がかかることを考えると、インレー湖もいっぱいお金が必要なはず・・・。外国人観光客から入域料(10ドル)を徴収していますが、あまり有効に使えていないのではないかなと思います。
次の記事はこれ!読み応え満点ですよ☆
インレー湖の環境を守るため、我々外国人ができることについても、引き続きブログで紹介していきたいと思っています。お楽しみに!