NGOミャンマー駐在員のハリキリノート

ミャンマーのタウンジーという町で、国際協力をやっています。NGO活動、ミャンマーあれこれ、国際結婚育児ネタなど

インレー湖入域料15,000ksは、どうやって使われるのか知っていますか?

ミンガラーバー。

最近、インレー湖の環境問題について頑張ってます、鈴木亜香里です。

 

このブログでもたくさん記事を書いてきたインレー湖の環境問題。

2019年12月ごろから、ローカル団体の人々と関わりだし、自分の中でたくさん学びがありました。また、今までとは少し違ったやりがいや達成感を覚える瞬間もありました。せっかくなので、ブログでシェアしたいと思います。

 

インレー湖に興味がある人や、国際協力、環境問題に興味のある方にオススメの記事です。インレー湖に訪問したときに外国人が支払わされる「インレー入域料15000ks(10ドル)」がどのように使われるのかもわかりますよ。

 

インレー湖の環境問題について

インレー湖の環境問題については、このブログで何度も書いてきました。過去記事をご参照ください。

生活排水、農業排水や観光業など、さまざまな原因でインレー湖の汚染が進んでいます。

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ステークホルダー大集合!

インレー湖の環境保全には、本当にたくさんのアクターが関わっています。ミャンマー政府、外国の政府、UNDP、JICA、外国のNGO、地元の団体、ホテル等の観光業者、大学等の研究者、インレーで生活する人々などなど・・・。ステークホルダーというやつですな。

 

たくさんの団体や人々がインレー湖のためを思って活動していますが、全体像を把握できている人が一人もいません。どの団体が、どこで何をやっているのか、全く不明な状態でした。

 

JICAのインレープロジェクトを担当されているコンサルタントの方と意見交換をした際、ステークホルダーの全体像をつかみたいよね、という話になりました。そこで、ステークホルダーをできるだけ集めてワークショップをやることになりました。

会場費等の予算はJICAプロジェクトのほうから出せるとのこと。開発コンサルの方と一緒に仕事をするのは、私にとって初めてのことで、とてもワクワクしました。

 

1回目:ステークホルダーワークショップ

1回目の集まりは、2019年12月23日に実施しました。どういう人に集まってもらえばよいかわからなかったので、インダー文学文化協会に相談して、関係しそうな団体を集めてもらいました。

 

この日の目的は、インレー湖で活動する団体の情報共有です。それぞれの団体がどこで何をしているのか、紹介し合うことを目的としました。

 

ステークホルダーワークショップのアウトプット3種

ステークホルダーワークショップ内容

ステークホルダーマトリックス

まず、団体名、活動分野、活動内容、活動地域を付箋に書いてもらいました。その後、一人ずつ前に出て、付箋を表に貼りつけながら、活動紹介をしてもらいました。各団体が何をしているのか、大まかに把握するためです。

 

ステークホルダーリレーションシップマップ

インレー湖で活動する団体を、

ローカル(青色)、インターナショナル(黄色)

CSO(Civil Society Organization、市民社会組織のこと)、Development Partner, NGO, Government, Institute, Private

の12個に分類しました。

 

例えば、地球市民の会は国際NGOなので、黄色いNGOのゾーンになります。

JICAは黄色のDevelopment Partnerのゾーンになりますね。

黄色のPrivateゾーンには、万田酵素なんかも入っています。

ステークホルダーリレーションシップマップ

ステークホルダーリレーションシップマップ

参加した団体の多くはローカルのCSO団体でした。ローカルCSO団体は、「Inle Networking Group」というネットワーキングをすでに作っていました(この日に初めて知った・・・)。なので、彼らは「インレー湖に関係する団体のことは、俺らはよく知っているぞ」という認識だったようでした。

 

でも、このリレーションシップマップを作ったことで、ネットワーキンググループは限られた団体しか所属していないことが明らかになりました。外国の団体からは、「Inle Networking Group」の存在が全く知られていませんでした。

 

各セクターごとに、強みや弱みがあります。例えば、地元のCSOはインレー湖の情報は持っていますが、お金がない・・・。Development Partnerは、お金や政府への発言権は持っているけど、短期的にしか関われない・・・など。

 

セクターを越えて協力していくことで、それぞれの強みと弱みをカバーし合うことができます。

各セクターの強みと弱み

各セクターの強みと弱み

ステークホルダーロケーションマップ

各団体の活動分野とサイトが一目瞭然になるよう、ステークホルダーロケーションマップを作成しました。

緑は植林、赤はゴミ拾い、黄色は農業・・・などと色を決めてシールを貼りました。

研修などの啓蒙活動については、多すぎてシールを貼りきれませんでした。

 

ロケーションマップがあることで、どこに何の活動が集中しているのか、ある程度の傾向をつかむことができます。例えば、どこかの団体が新しくインレー湖の環境問題に取り組みたいとなったときに、すでにあるCSO団体と協力したり、あまり誰も手を付けていない分野を優先したりすることができるようになります。

ステークホルダーロケーションマップ

ステークホルダーロケーションマップ

 

ワークショップの難しさ

このワークショップは、ファシリテーターを私が担当しましたが、ミャンマーでワークショップをやるときには、日本と違った難しさがあると感じました。というのも、皆やたらと話が長いこと!40人近くの方が参加していたので、発言時間を「一人1分」と決めて、何度も「1分です~」と言わなければならない場面がありました。アンケートを見てみると、ワークショップ形式というのは新鮮だったようで、良かったという意見が多くあったのは良かったです。

 

一方、たくさん人を集めてくれた「Inle Networking Group」の事務局長にとっては、自分を差し置いて外国人がしゃしゃり出てきたと感じられたようで、最後の最後に皆の前で批判をかなり厳しい口調で言われてしまいました。

「事前にアジェンダもない会議なんて許されない」「ルールを一方的に押し付けられて、上下関係があるようで不愉快だ」等、皆の前で怒られて、私は涙目・・・。(ルールというのは、「遠慮せずに発言しましょう、人の話は否定せずに聞きましょう」的なワークショップルールのことなのですが)。一番発言権がある事務局長に、事前に相談をしていなかったことが失敗要因でした。

 

怒られて悲しい気持ちになったこともあり、「インレー湖のステークホルダーをまとめるのは、不可能なのでは・・・」という気持ちになりました。

ワークショップに参加する人々が写っている写真4枚

第一回ワークショップの写真

2回目:調査報告会

第二回目は、2020年2月6日に実施しました。第二回目については、JICAのコンサルタントの方とは別に、地球市民の会と東洋大学で実施しました。

 

地球市民の会と東洋大学は、三井物産環境基金の助成金をとって、3年間のインレー湖環境調査を実施してきました。水質調査を継続的に実施したり、湖畔村や山の上の村の全戸調査や、観光業者に対するインタビュー調査等です。

 

3年間の調査成果を発表する報告会として、東洋大学の先生たちに日本からお越しいただきました。参加してくれたのは、地元CSOの方々や、ガイドやホテルなどの観光業界の方々でした。本当は政府関係者にもご参加いただきたかったのですが、あいにく大統領がシャン州に来る時期とかぶってしまい、多忙のためにご参加いただけませんでした。

 

発表の報告書を日本語とミャンマー語で作成しています。そのうち、データをどこからかダウンロードできるようにしたいと思います。

大学教授たちが発表している写真4枚

第二回報告会の写真

 

3回目:ステークホルダーミーティング

3回目は2020年3月6日に実施しました。こちらは、第一回と同じく、JICAのコンサルタントチームと協働実施です。

 

1回目の結果を再共有し、オープンディスカッションをやりました。これまで、外国の団体は情報を取るだけ取って、地元にフィードバックせずに帰っていくことが多かったです。私たちはそうならないように・・・と、まとめた情報を再共有しました。

 

外国団体への不信感

オープンディスカッションをする中で、一部の参加者はかなりJICAや外国の団体を批判してきました。「あんなにたくさんの予算を使って、成果はこれだけなのか?何に金を使っているのか信じられない」「このステークホルダーマトリックスがなんだ?まだまだ含まれていない団体もあるし、全く情報が不足している」などと、かなりディスってきました。

 

以前も書きましたが、地元CSOは、外国の団体やミャンマー政府にかなり不信感を持っています。というか、政府に文句を言うのが仕事だと思っている節もあるような・・・。あまり良い態度とは思えませんが、彼らがそう発言したくなる背景もあるんですよね。

 

ただ、いつまでもディスっているだけだとインレー湖は良くならないし、関係者のやる気もそがれます。早く気付いてほしい・・・。

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オジサンが優しくなった

第三回目で驚いたのが、オジサンが優しくなったことです。第一回目のワークショップで、私を怒り散らした「Inle Networking Group」の事務局長の彼です。

 

上述のように、JICAやTPAは参加者からディスられるわけです。「ステークホルダーマトリックスの情報が不十分だ!」とか。そのとき、事務局長は「このステークホルダーマトリックスは、JICAやTPAが主導してくれたけれど、実際に作ったのは我々だ。我々の情報を元に作ってくれたものだ。確かに情報はまだ不足しているけど、何もやらないよりは遙かに良い。感謝すべきだ」などと、JICA・TPA側を援護する発言を何度もしてくれたのです!第1回と明らかに態度が変わっている!!

 

インレーオーソリティーコミティー

オープンディスカッションの中で、皆が情報を共有できるプラットフォームが必要だという話になりました。そのプラットフォームをこれから担っていくのが、「インレーオーソリティーコミティー」です。

 

インレー湖を保護するための法律が、2020年1月に調印されました。それから90日以内に、インレーオーソリティーコミティーが組織されます。政府の関係部署のメンバーと、CSO11名が参加します。CSO11名の人選はすでに終了しているとのこと。1回目に私を怒って、3回目に優しくなったオジサンは、このインレーオーソリティーコミティーのメンバーで、3人いる事務局長のうちの一人とのことです。

 

インレーオーソリティーコミティーは、インレー湖の入域料(10ドルのやつ)をすべて管理することになります。インレー湖環境保全のグランドプランを描き、それに基づいて各ステークホルダーを動かしていく司令塔のような役割を期待したいです。各団体が調査した内容もインレーオーソリティーコミティーの事務所に行けば、全部見れるよーみたいな。これから法律の細則を作っていくところだそうですが、ぜひとも頑張ってもらいたいです。

 

まとめ・今後について

信頼関係が大切

3回のワークショップを通して、地元のCSO団体と少しでも信頼関係を築けたのが良かったです。この他にも、2月にJICA事業の通訳をやって、地元の議員さんと仲良くなったりもしています。

 

何より、オジサンが優しくなって味方になってくれたのが本当に嬉しかった。実は、この3回のワークショップの合間にも何度か会う機会があり、そのたびに誠実な態度で接することを心がけていました。苦手だなとは思っていたのですが、すぐに挨拶に行ったり、ワークショップ内容の相談をしてみたり。そして第3回の数日前に、オジサンから「一緒に紅茶でも飲もうぜ」と誘われ、「最初の時はカッとなってしまってすまなかった。これからインレーのことを一緒にやっていこう」と言われたのです。紅茶後の第3回ワークショップで、彼の態度が良くなったのは前述のとおり。

 

JICAのコンサルタントの方からも、「あれだけあの人の態度が変わったのは、鈴木さんの真摯な働きかけのおかげでしょう」と褒められた!

 

地元団体と外国団体をつなぐ存在に

日本の湖を保全することと比較すると、ミャンマーのほうが複雑で難しいのではないかと思います。それは、外国の団体が入ってくるから。先進国だと自分たちのことは自分たちでやるので、おそらく国内のステークホルダーが協力するだけで終わります。でも、インレー湖の場合は外国のステークホルダーが本当にたくさんいて、予算規模も大きく、声もデカイ。コミュニケーション不足のせいか、外国の団体に好き勝手にされているように地元の人は感じていて、ディスってきたり、援助慣れみたいになったりしています。

 

私は外国のNGOに所属していますが、地域に根付いて長期的な活動をしてきたし、これからもしていきたいと思っています。また、ミャンマー語ができるので、地元の人からの信頼も得やすい立場にいます。今後、公式にさまざまなステークホルダーをつなげることはインレーオーソリティーコミティーがやっていくでしょうが、傍からそれをサポートする役割を担っていけたらいいなと思っています。