NGOミャンマー駐在員のハリキリノート

ミャンマーのタウンジーという町で、国際協力をやっています。NGO活動、ミャンマーあれこれ、国際結婚育児ネタなど

ミャンマー・シャン州の畜産(乳牛)について調査してきたまとめ

ミンガラーバー。

ミャンマー駐在9年目、鈴木亜香里です。

 

先日、ミャンマーの畜産(肉牛)についての記事を書きました。

www.ngomyanmar.com

 

ミャンマーの畜産について知っても「ふーん」で終わる人が多いと思われるのですが、一部のマニアックな方々から高評価をいただきました。調子に乗った私。今回は、もともと書くつもりがなかった「ミャンマーの畜産(乳牛編)」を書いていきたいと思います。肉牛篇よりも情報が少ないですが、読んでみてね!

 

調査概要

 2019年9月中旬に、タウンジー近郊の酪農家を訪問し、インタビュー調査を実施しました。鹿児島大学農学部のスタディーツアーの一環です。私は通訳をしていてメモをとれなかったため、具体的な数値を間違えている可能性もあることをご考慮ください。

また、今回の調査は「シャン州タウンジー近郊」に関する調査です。ミャンマーの乳牛はメティラやマンダレー近郊のほうが有名で、おそらく企業が入って大規模にやられていると思います。タウンジー近郊では、大きな企業が入っていない地域のケースです。

 

シャン州の乳牛について

飼育方法

私たちが見せてもらった酪農家は、100頭規模でした。中規模経営といった感じ。オーナーご夫妻と、ワーカーが8名程度います。ワーカーが牛の世話と搾乳を担当し、オーナーご夫妻は輸送、販売とヨーグルト加工を担当していました。

 

牛の種類:白と黒のいわゆる牛乳の牛

牛はメティラから買ってきたそうです。肉牛として利用されている茶色いコブ付きの牛とは違い、白と黒のいわゆる「牛乳を出す牛」っぽい牛でした。しかし、中には若干コブが出てきているものや、顔がちょっとコブ牛っぽいものも混ざっていました。メティラで地元の牛と交雑してしまったのではないか、とのこと。

ミャンマーの乳牛

いわゆる乳牛
エサ:地元で手に入るもの

牧場のすぐ近くで、ネピアグラスを栽培していました。また、牧場の周りにはトウモロコシを栽培している農家がたくさんあり、トウモロコシを収穫した後の葉や茎の部分は、多くの場合無料でもらえるとのことです。ワーカーがトウモロコシ畑に出かけ、トウモロコシの茎や葉をとってきます。草が不足する夏には、稲わらを与えることもあるそうです。

その他、米ぬかや豆かす等をまぜて与えています。日本では輸入してきた乾燥飼料を使うそうですが、こちらは水と混ぜた状態で与えます。

トウモロコシ畑

雄牛に乗るオーナー。うしろにはトウモロコシ畑が広がっている。

 

登録制度:畜産局に事業ライセンス登録

肉牛の場合は特に登録制度はなく、小規模農家が好き勝手に飼育していました。が、こちらの酪農家の場合は畜産局に届け出を出しているとのことです(事業ライセンス)。この酪農家は100頭程度の中規模経営のため、事業ライセンスを出していますが、10頭規模の小規模経営の酪農家は、特に事業ライセンスは出していないのではないかとのこと。

畜産局からの指導がたまに入るそうです。1頭1頭、耳に黄色いナンバーを付けて管理するように指導されます。このナンバープレートは、畜産局が準備して、購入させられたとのこと。

 

繁殖:自然と人工授精(おみくじ方式)

この牧場には、オスが3頭いました。いずれも自然繁殖をさせるために飼っているとのこと。また、人工授精も何度かやったことがあるそうです。獣医に依頼すると、人工授精用の精子を持ってきてくれます。3種あり、ドイツ、ニュージーランド、日本の種類だとか(ホンマか!?)。

この人工授精がまたクセモノ。「3種のうちで、どれが好きですか?値段は違うんですか?」と質問したところ、「選べないんだ」との回答。なんでも、獣医が冷蔵ボックスに入れてきたもの(3種の詰め合わせアソート!)から、どれかわからない状態で引き抜かなければならないそうです。一度引き抜いたらもう冷蔵ボックスには戻せないので、一発勝負のおみくじ状態!絶対に日本ではありえないことが普通にある、これぞミャンマーです。

ちなみに、この牧場では数頭、人工授精の牛がいます。牧場マネージャーに「こいつがニュージーランド種だ」などと教えてもらいましたが、よくわかりませんでした・・・。

牡牛

種付け用の牡牛。変わった風貌
病気:獣医を呼ぶ

何か病気が発生した場合は、獣医さんを呼んできてもらうそうです。自分で判断して注射をしていた肉牛農家とはだいぶ違いますね。

 

オスや年老いたメスの処分:肉用として販売

自然繁殖や人工授精を行うと、オスが生まれる場合もあります。その場合、オスはある程度大きくなったら、肉用として売っています。また、メスも8回程度出産を繰り返すと年老いてしまい、子どもができづらくなったり、乳の出が悪くなってきますので、肉用として販売します。販売価格は、大きさによります。肉用のコブ牛と同じような価格でした。つまり、肉を食う消費者は、もしかしたら乳牛の肉を食べている可能性もあるということです。

 

牛糞:売れる

牛糞は大量に出ますが、すべて販売しています。袋単位で買っていく人もいれば、トラック単位で買っていく人もいるそうです。良い副収入減となっています。

 

搾乳方法

量:日本の半分

搾乳は一日2回行っています。朝4時ごろ(?)と、お昼の12:30頃。日本では3回行うことが多いそうです。1頭につき、1日あたり15リットルくらい搾乳できるそうです。日本だと30リットルだそうなので、半分くらいの量。餌の栄養価、牛の種類、搾乳技術などの違いと思われます。

また、今回の調査ではあまりよくわかりませんでしたが、乳を搾るために牛を妊娠させる間隔や、妊娠に備えて乳しぼりを休むタイミングは、おそらく日本と異なっていると思います。ミャンマーのほうが長く休みをとっているのではないかな。次回、要調査。

 

搾り方:手搾り

日本のように機械で搾るのではなく、ワーカーさんの手搾りでした。必要なアイテムはバケツと菜種オイルです。まず、バケツを乳の下に置きます。菜種オイルを手にとり、牛の乳首に塗ってから、搾ります。1回の搾乳で、バケツ半分より少し多めにとれます。バケツにある程度たまったら、簡単に濾して容器に入れます。

私たちが乳しぼりを見学していたとき、ちょうど乳を搾られている牛が「ジャーッ!」とおしっこをしました。その跳ね返りがバケツに入ってました(笑)。まあ、よくあることなのでしょう。

乳しぼり

牛がオシッコしても、特に気にしないスタッフ

 

品質検査:「水は混ぜてません!」

日本だったら、成分無調整とか、乳脂肪分35%などとありますが、こちらは特に何もありません。品質検査をしているかと質問すると、「うちは水を混ぜていない」との答え。ミャンマーでは、搾乳量が少ないときに牛乳に水を混ぜるというのは普通にあることで、消費者も「水が混ざっているかどうか」を一番気にしています。逆に言うと、それ以外の脂肪分の量とか、雑菌などについては全く気にしていません。(オシッコも混ざってるけどな・・・)

数か月に一度、畜産局から牛乳の調査がくるそうです。搾乳した牛乳を提出し、雑菌等を検査されます。もし問題があれば、畜産局からの指導が入るとのこと。こちらの牧場は事業ライセンスを申請しているからこういう検査があるのでしょうが、小規模でライセンスを申請していない牧場には、おそらく検査はないんだろうと思われます。

牛乳

バケツから容器に移し替える

 

管理方法:常温で

牧場には、冷蔵施設はありませんでした。搾乳したら、すぐに濾して容器に詰め、タウンジーに運んでいきます。牧場内に冷蔵施設はなく、運搬の車も冷蔵車などではなく、オーナーの四駆でした。

牛乳

倒れないのかな?

販売方法

販売ルートは、直営店・販売代理店(牛乳専門店)、喫茶店、スーパーマーケット・食料雑貨店があるようです。

 

直営店・販売代理店(牛乳専門店)

オーナーがタウンジーで経営する牛乳屋さん。1階の小さいスペースが店で、牛乳、ヨーグルトと卵を販売しています。2階はオーナーの自宅。販売代理店も同じような感じで、オーナーの店なのか代理店なのかは、見た目だけではよくわかりません。


牧場から運ばれてきた牛乳をビニール袋につめて販売します。冷蔵庫はありますが、ヨーグルト用で、牛乳は常温で置いてあります。

 

毎日2回牛乳を入荷します。だいたい何時ごろに入荷になるのか、まわりの住民もよく知っていて、入荷直後に買いに行きます。入荷から2時間くらいで売り切れてしまうことがほとんど。値段は1viss(1.6kg)=2200ks~2400ksでした。0.5viss単位で買っていく人が多いです。

牛乳屋

販売代理店がビニール袋に牛乳を詰めて販売している様子。メットをかぶっているのが買いに来た人。

牛乳が売れ残った場合は、ヨーグルトに加工します。それでも余る場合は、チーズに加工することもあるらしい。ヨーグルトやチーズに加工するのは牧場ではなく、販売店が加工しているそうです。 

ヨーグルト

販売代理店のおばちゃん手作りヨーグルト。冷蔵庫に入っている

 

喫茶店

喫茶店に卸す場合もあるとのことでした。ミャンマー人が大好きなミルクティー等に使用されます。ヨーグルトやホットミルクもけっこう飲まれています。何も言わないと砂糖を入れられるので、砂糖を入れられたくない場合は「プレーン」と言って注文します。

喫茶店では練乳もよくつかわれています。練乳は缶入りが主流で、余った牛乳を使って地元で加工されることはあまりないようでした(今回は見つけられなかった)。

 

スーパーマーケット・食品雑貨店

スーパーマーケットや小規模な食品雑貨店でも牛乳が販売されます。地元の牧場が搾った牛乳や、ミャンマーの有名酪農産地から運ばれてきたヨーグルト等があります。

また、紙パック入りのウルトラヒートの牛乳も販売されています。こちらは常温で長持ちし、飲む前に煮沸しなくていいので気楽です。しかし、輸入もので値段が高いため、買う人は少ない印象(1リットルで2400ksくらい)。

Oceanスーパーマーケットができてからは、日本人がイメージするような、いわゆる「牛乳」も買えるようになってきました。紙パックではなくて、プラスチック製の1リットルボトルに入っています。CPやダッチミル等の外国の大企業のものです。冷蔵庫で販売されており、飲む前に煮沸は必要ありません。1リットルで2000ksくらいです。我が家は冷蔵庫があり、煮沸が面倒なので、このタイプを買うことが多いです。

 

ちなみに、「Oceanスーパーマーケットができてから、牛乳の需要が減った?」と販売代理店に質問してみたところ、「特に変化はない」との回答でした。なんとなくですが、庶民は地元産の牧場の牛乳を買い、セレブはスーパーマーケットの輸入物の牛乳を購入している印象です(私はセレブ派)。

 

消費者

煮沸して飲む

販売されている牛乳は全く殺菌されていない状態です。消費者は家に持ち帰り、煮沸してから飲む必要があります。私は煮沸が面倒だし、忘れて吹きこぼしたりするので、スーパーで外国のやつを買っちゃう・・・。

冷蔵庫がない家庭がまだまだ多いので、沸かしてホットミルクにして飲み切ってしまう場合が多いです。

 

ヨーグルトがけっこう好き

ミャンマー人の言うヨーグルトは、日本人からすると「飲むヨーグルト」です。固形ではなく、ラッシーみたいな感じですね。夏の暑い時期になるとヨーグルトの需要が増えるそうです。寒い時期は、ヨーグルトよりも牛乳が好まれるとのこと。夏のほうが消費が増え、冬は需要が減って牛乳が余ることが多いそうです。

 

品質も気にする

上にも書きましたが、とにかく「水が混ざっていないか」が重要な点です。「あの店の牛乳は薄い、水が混ざっている」と、すぐ噂がまわります。

また、脂肪分が多いほど濃くて良い牛乳という印象があるようです。煮沸したときに脂肪分の塊がたくさんできると「ここの牛乳は濃くて良い」などと言います。

 

考察

肉牛よりもビジネスっぽい

肉牛の飼育をやっている人たちは牛糞をとることがメインの目的でした。また、牛は資産的な位置づけもありました。しかし、乳牛の場合はある程度の規模があり、ビジネスっぽくやっていると感じられました(今回、小規模酪農家のインタビューはできなかったので、言い切ることはできませんが)。

インタビューから畜産局や獣医の存在も感じ取ることができ、肉牛よりも政府の管理が行き届いている印象でした。今後、畜産局や獣医にも話を聞いてみたいところです。

 

地域内での流通のみ

肉牛の場合は、牛をタイや中国むけに販売するということがありましたが、牛乳の場合は地域内での流通に限られているようです。お肉も地域内に限られていましたね。お肉の場合は、制度的に地域外に販売することができなくなっていますが、牛乳の場合はそういう制度はないはず。おそらく、冷蔵設備が整っていないことが原因かと思います。

酪農家に「今後、規模を大きくしていくつもりか?」と質問したところ「タウンジー周辺の需要がそこまでまだ伸びないので、現状維持」という回答でした。北海道で牛乳を搾り、日本中にもっていって販売している日本とは、全く違った考え方です。フードマイレージや地産地消という点を考えると、ミャンマーのほうが持続可能な酪農になっている印象。

 

品質管理が弱い

冷蔵できない、殺菌していない、オシッコが混ざっている、病気に対する管理体制が弱いなど、ミャンマーの牛乳の品質には不安が残ります。地元の消費者もその点は理解していて、きちんと煮沸をして飲んでいます。たまに日本人がミャンマーの地元の牛乳を買い、煮沸することを知らずに飲んでお腹を壊すことがありますね(笑)。日本の消費者より、ミャンマーの消費者のほうが賢く、自分の身を自分で守っています。

 

今後調査したい点

・小規模な酪農家(10頭以下)に話を聞いてみたい。

・タウンジー近郊のインド人系の酪農家にインタビューしてみたい。この人たちは、茶色い牛のミルクを搾っているという噂あり。ヒンドゥー教徒か?

・畜産局や獣医の話を聞いてみたい。

・ヨーグルトやチーズに加工する行程を見てみたい。

・他地域の酪農についても知りたい。

・他地域で、大企業に販売している酪農家はどういう規模で、どういう処理方法でやっているのか知りたい。大企業の品質管理方法についても知りたい。

 

参考記事

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www.ngomyanmar.com