NGOミャンマー駐在員のハリキリノート

ミャンマーのタウンジーという町で、国際協力をやっています。NGO活動、ミャンマーあれこれ、国際結婚育児ネタなど

国際協力の「農業研修」ってどんな感じ?事例紹介

ミンガラーバー。

ミャンマーで農村開発やっています、鈴木亜香里です。

 

昨日は、久しぶりにナウンカ村落開発センターに行ってきました。3か月研修のOBOGを対象としたフォローアップ研修があったからです。こちらの研修、なかなか面白いプログラムになっているなと思うので、ブログに書きたいと思います。

 

国際協力では「研修」がよく実施されますが、どんな感じでやっているの?と疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか。私は前職では経営コンサルティング会社で、研修講師もやっていたので(まだまだ見習いレベルでしたが)、先輩から教わった技もいろいろと使っています。

 

3か月研修とは

毎年1月~3月の3か月間、ナウンカセンターで実施している研修です。3か月間、ナウンカセンターに住み込みでみっちり学びます。

 

センターの前で修了証を持って記念撮影

ナウンカ3か月研修修了式

循環型農業・畜産の座学と実践がメインですが、その他にもキノコ研修、機械修理(男子)、ミシン(女子)、食品加工、石鹸づくり、日本語基礎、PC基礎、リーダーシップ、会計など、さまざまなことを学びます。午前中に座学、午後は農業実践をします。

 

講師はTPAのスタッフを中心に、いろんな人にお願いしています。機械整備、ミシンは専門の先生に来てもらっています。獣医さんや農業省の人に講演をお願いすることもあります。私も毎年3日間くらい担当して、日本語、コーヒー、こんにゃく、石鹸やクリーム作りなどを教えています。 

足踏みミシンを踏む女性

ミシン研修

 対象は、20代の男女10名。研修費用は30,000ksです。これは激安で、足りない分は外務省のNGO連携無償資金より出しています。無料にすると、「お前は家で働かないからセンターに行ってこい!」みたいな人が来るので、そういうのを避けるために有料にしています。

 

OBOG研修プログラム

毎年6月に、研修修了生(OB/OG)を呼んで3日間のフォローアップ研修を実施しています。(今年はコロナの影響で7月)

 

対象は去年の修了生(2019年1月~3月、7期生)と今年の修了生(2020年1月~3月、8期生)。その前の人たちは任意参加です。同窓会みたいな雰囲気ですね。

 

村でやってきたこと、困っていることを発表

1日目は、研修を修了してから、村に帰って取り組んだことを発表してもらいます。今年の修了生は、3月に修了してから3か月くらい経っています。村で農業を実践していく中で、どういう工夫をしてきたのか、困ったことは何か、発表してもらいます。発表に対して、仲間や先生たちが質問したり、アドバイスをしたりします。

 

去年の修了生には、1年間で事業に取り組んでもらっています。詳しくは後述しますが、前回のOBOG研修で事業計画を作っています。20万ks(約2万円)の貸付金を元手に、1年間事業に挑戦した話を発表します。これに対しても、仲間や先生たちが質問やアドバイスを行います。

 

1日目の夜は、皆でわいわいと交流。歌を歌ったり、おしゃべりしたりして楽しく時間を過ごしているみたいです。

 

ワールドカフェ「成功している農民とは」

2日目は、私が担当して「ワールドカフェ」というワークショップを実施。ワールドカフェについては、詳しく説明してあるサイトがあるのでググっていただければと思います。

ミャンマー語が書いてある模造紙が壁に貼られている

ワールドカフェルール(ミャンマー語版)

「成功している農民とは」「成功した農民になるために、自分は何を頑張りたいか」というテーマで、20分×3ターン話してもらいます。

4人グループで机に座って会話している様子

ワールドカフェ、話し合いの様子

なかなかワークショップをやったことがない人が多いので、最初はどうしたらよいかわからずに静かにしているのですが、そのうち慣れてワイワイと話しだします。

 

1年間の事業計画作成、発表

今年の修了生は、1年間の事業計画を作成します。5期生から、20万ks(約2万円)を1年間、無利子で借りられる制度を作りました。村で循環型農業や畜産、ミシンなどの活動を始めるためのお金です。お金を借りるためには、事業計画を立てて発表し、返済可能かどうか認めてもらう必要があります。

 

夜の自由時間に、フォーマットに計画を記載します。予算ややること、返済計画など。事業計画なんて立てたことがない人がほとんどですが、1日目に去年のOBOGの発表を聞いているので、なんとなく何をしたらいいかイメージはついています。わからないことは、先生や先輩にアドバイスをもらえます。

 

計画はこんな感じが多いです。

  • 堆肥を作る資材を買って堆肥を作り、自分の畑で使います。
  • 堆肥を作る資材を買って堆肥を作り、村で販売します。
  • キノコ栽培を行います。
  • 豚を飼って大きく育ててから、または子豚を生ませてから売ります。
  • 養鶏を始め、卵販売をします。
  • アヒルを飼って、卵販売をします。
  • ミシンを買って、家で仕立て屋を始めます。
  • 石鹸や洗剤を作って販売します。

  

3日目に、皆の前で発表し、質問やアドバイスを受けます。

 

計画がボロボロで現実性がない場合は、お金を借りることができないルールになっています。が、先輩や先生がアドバイスをしてくれるし、菩薩のセンター長が判断するので、これまで借りられなかった人はいませんでした。

 

ちなみに、この貸付金の返済は今まで100%です。返さない人が一人でも出たら、翌年から貸付金制度は廃止すると言ってあるので、たとえ赤字が出ようとも返済してくれます。

 

 

未来のヒーローインタビュー

最後は、「未来のヒーローインタビュー」というワークショップを実施します。今年の修了生が対象です。

 

今日は、2021年7月28日です(1年後の日付)。

OBOG研修のために、ナウンカセンターに来ています。

 

あなたは去年20万ksのお金を借りて、1年間、事業を実施してきました。

後輩の前で、この1年間に取り組んできたことや、困難をどう乗り越えてきて、どう成功してきたのか、語ってください。

 

一人ずつ前に出てもらい、教室に入って拍手で迎えらえるところからスタートです。ちょっと誇らしげに、成功者のオーラを漂わせながら登場してもらいます。仲間や先生たちは、後輩になりきって質問をどんどんします。 

  • 20万ksで何を買ったのですか?
  • どんな困難がありましたか?
  • 後輩にアドバイスをどうぞ。

などなど、どんどん質問をして、それに対して回答します。あたかも実際に経験してきたかのように。事業計画はすでに書いてありますから、事業計画に沿った形で回答します。途中でちょっとジョークをはさんだり、成功した高揚感みたいなのを疑似体験することで、すごく楽しくなって皆盛り上がります。

椅子の背もたれにもたれて座る青年

成功者は、座り方も少し偉そう!

ワーク終了後、皆で来年に再会することを約束し、OBOG研修は終了となります。

年によっては、3か月間に伝えきれなかった農業知識の補講をやったり、ゲスト講師を呼んだりすることもありますが、メインプログラムはこんな感じ。

笑顔で話を聞いている人たち

ミャンマー人はジョークが上手!大ウケ

 

今年のOBOG研修での気づき

ヒーローインタビューを先にしたのは失敗?

今年は、私が2日目しか参加しなかったこともあり、ワールドカフェと未来のヒーローインタビューを2日目に実施しました。未来のヒーローインタビューは、本当は事業計画ができあがってからやるのが理想なのですが、順番を入れ替えてやってみました。

 

事業計画がきちんとできていない状態で未来のヒーローインタビューを行ったので、絶対にありえない状況になってしまいました。例えば、20万ksの原資だけで始めて、1年間で車を買えるくらいの金持ちになったとか。ワーカーを10人雇っているとか。困難を聞いても「特に困難はなく、うまくいっている」とボヤっとした回答。楽しくモチベーションを上げることはできましたが、実現可能性はゼロなヒーローインタビューとなってしまいました。

 

事業計画を先にすべきだよな・・・と思ってはいましたが。失敗したなぁという感じ。

 

しくじり先生の登場

そこで登場したのが、去年の修了生。彼は1日目には間に合わず、2日目から参加していました。そのため、1年間実施してきたことをまだ皆の前で発表していなかったのです。「自分はまだ発表していないから、本当に1年間やってみた経験談を発表したい」と前に出てきてくれました。

椅子に座って語る青年

しくじり先生、失敗談を語る

僕は、養鶏をしようと思って、去年20万ksを借りました。鶏小屋を作るのに20万ksでは足りず、自分の家のお金も50万ksくらい使って小屋を建てました。そして、ヒナを900羽購入しました。

 

産まれたばかりのヒナは、寒いと死んでしまうので、堆肥の発酵熱で温めたり、電球で温めてあげたりしないといけません。友人と交代で夜も見張ることにしたのですが、3日くらい経つと、友人はヒナの世話をせずに居眠りしてしまいました。900羽いたヒナが、1週間後には100羽になってしまいました。

 

結局、大赤字。20万ksを返済するために、お母さんに泣きついてお金を持ってきました。皆には、僕のような失敗をしてほしくないです。

 

小さい鶏小屋しかないのに、900羽のヒナを買うなんて正気の沙汰ではないです。研修センターでさえ、1回に200羽くらいしか飼わないのに・・・。相談してくれれば、いくらでもアドバイスができたのに、彼は研修センターの先生に連絡をしてくることはありませんでした。

 

本当だったら、先生たちに連絡をとってアドバイスをもらうべきでした。ヒナの面倒を見る友人と一緒に研修センターに来て、友人たちも学ぶべきでした。いきなり大規模に始めるのではなく、少ない数から始めるべきでした。自分の実力を過信して、仕事を軽く見てしまっています。

 

現実離れしたヒーローインタビューに答えた今年の修了生たちにとって、とても良い「しくじり事例」の発表でした。

 

古株OBのビジネスプラン立て方講座

5期生や6期生の終了生も、前に出てきて発表してくれました。

ホワイトボードの前で立って語る青年

熱く語る先輩

自分や、自分の同期は豚を飼った人が多かった。が、豚の病気が流行って3匹中1匹が死んでしまい、2匹は死ぬ寸前に安値(18万ks)で販売することになった。20万ksの原資が18万ksに減ってしまった。事業にはトラブルがつきもの。事前にトラブルをできるだけ想定して、もしそうなったらどうするか、事前に考えておく必要がある。

 

僕はキノコ栽培を始めた。最初1000個からスタートしたが、失敗して200個しか残らなかった。それでも、絶対にキノコを成功させたいという想いがあったので、何度も失敗しながら続け、3年後にやっと黒字になった。20万ksが借りられるからという軽い気持ちで始めるのではなく、失敗しても自分が本気でやりたい事業をやるべき。それがないなら、20万ksを借りないという選択肢もありうる。

などと、とても良い話を先輩がしてくれました。

 

OBの一人は、研修修了後にローカルNGOに就職しており、村の人に事業計画の作り方を教えて一緒に作る仕事をしています。「今晩、僕が計画の立て方を教えてあげるので、興味がある人は聞いてほしい」と言ってくれました。

ホワイトボードの前に立って語る青年2

教えてあげるよ!

未来のヒーローインタビューを先にしてしまったのは失敗ではありましたが、OBたちがフォローしてくれて、これはこれでアリという感じになりました。良かった・・・。

 

修了生の成長を感じられた

今回、古株修了生たちの成長を感じられたのがとても良かったです。ナウンカの3か月研修は、これまで8回実施してきて、80名のOBOGがいます。OBOGの中には、TPAの農業スタッフをやったり、他のNGOで働いている人もいます。養鶏ビジネスにチャレンジして、成功している人もいます。

 

最初は循環型農業も何も知らず、学校を卒業したばかりのヘニャヘニャした研修生たちが、3か月の研修とOBOG研修を経て成長していく様子を見れるのは、この仕事の醍醐味だと感じます。これも、3か月みっちり研修生を鍛えてくれる、菩薩のセンター長やセンタースタッフたち、支えてくれる先輩たちのおかげです。