ミンガラーバー。
ミャンマーで国際協力NGOの駐在員として活動しています、鈴木亜香里です。
先日、フリーランス国際協力師の原さんが「国際貢献の汚い実態を暴露します【貧困援助で金儲けする仕組みとは?】」という動画をアップされていました。
「国際貢献は貧困ビジネス」「NGOは仲介業者で、寄付の一部を仲介手数料としてとっている」「国際貢献でお金を稼いでいる人は、いつまでも貧困を必要とする」などと、暗い音楽をバックに語られています。
NGOに所属して、国際協力活動を行っている私にとっては、全く納得のいかない内容でしたので、反論ブログを書きたいと思います。
動画「国際貢献のウソ」
国際貢献の汚い実態を暴露します【貧困援助で金儲けする仕組みとは?】
15分程度の動画です。見ていただくのが良いかと思いますが、簡単に内容をまとめます。
- 国際貢献がビックビジネスになっている。それをNGOを例に解説する。
- NGOは、先進国のお金を持っている人から寄付を集め、一部(約20%)を自分たちの取り分としてとり、残りを途上国のために使う。先進国の寄付者と途上国の人たちをつなぐ「仲介業者」である。
- 途上国の貧しい人たちは商材。商材があるからこそNGOは寄付を集められる。「貧困ビジネス」
- 本来の国際貢献の最終目標は「海外からの支援が必要なく、自立できること」 。しかし、国際貢献から利益を得ている人は、途上国の貧困をいつまでも必要としてしまう。ここに矛盾がある。
- 解決策:国際貢献をする目的をしっかりと見つめなおすこと。
- 原さんの例:国際貢献活動をしているが、自分の収入は寄付からもらっていない。Youtube、オンラインサロン、ブログ、ライター収入で食べている。NGOの人はそういう稼ぎ方をすべき。
文章で読んだだけではわかりにくいと思いますので、ぜひ動画を見てみてください。
私がひっかかった点
NGOの中の人として、いくつか言いたいことがありました。以下、何点か書きます。
NGOよりももっと「中抜き」しているところがあるぞ
原さんはNGOを例として語っていますが、 国連とか開発コンサルなどを取り上げたほうが良かったのではないかと思います。NGOが中抜きしていると言いますが、国連や開発コンサルの人たちと、(日本の)NGO職員の待遇は天と地の差です。
日本のNGOの平均給与は300万円台(年収)。国連や開発コンサルなどはもっともらっていると思います。また、福利厚生もNGOとはくらべものにならないほど充実しています。
NGOの収入は寄付から、国連やコンサルなどは税金から主に収入を得ているという違いはあります。が、どちらの「中抜き」が大きいかに着目すると、国連やコンサルのほうがNGOよりも圧倒的に「中抜き」額が大きいです。
国連の福利厚生がどんだけすごいかは、こちらの記事からも垣間見れます。
UNHCRと、彼氏ができたらブログが炎上した話 - NGOミャンマー駐在員のハリキリノート
欧米系のNGOは「中抜き」が大きく、職員の給与も日本のNGOとはくらべものにならないほど高いようです。原さんは欧米系のNGOを念頭に置いて語られたのかもしれません。
NGOに対する搾取ではないか
「中抜き」「中間業者」という言い方をすると、NGOは何も仕事をしていないように聞こえてしまいます。でも、本当はNGOは価値ある仕事をしています。
もし、NGOがいなかったら、先進国の人はどうやって途上国の人を支援しますか?遠くてなかなか現地に行けませんし、交通費もかかる。現地の言葉や文化もわからない。現地のことをよく理解せず、バラマキ支援をしてしまう。長期的なプロジェクトができない。などなど、難しい問題がいっぱいです。
詳しくはこちらの記事にも書いていますが、NGOはただ「中抜き」をしているのではありません。先進国の人たちから預かった寄付を、効果的に、効率的に使うために仕事をしています。
「寄付を全額現地に届けたい」と言う人が多いけど、それ本当に現地のため効果的なの? - NGOミャンマー駐在員のハリキリノート
「寄付を人件費に使われたくない」という方は、日本ではまだまだ多いようです。『寄付白書2017』によると、「約3割の人が寄付を人件費に使っても構わないと回答」したとあります。逆に言うと、約7割の人は寄付を人件費に使うことに消極的なのです(どちらともいえない約30%、使ってほしくない約25%、わからない約10%)。
NGOを利用しつつ人件費を払わないのは、NGOの人たちを搾取していることになるのではないでしょうか。
NGOもピンキリですから、中には本当に中抜きみたいな団体はあるのでしょう。寄付を集めることのみに注力し、事業実施は現地の団体に外注するという団体もあるようです。事業を外注して20%の管理費をとっているのは、私の団体みたいに直轄でやっている団体からすると「とりすぎでは?」と思うことは確かです。「広告宣伝費にお金かけすぎじゃないの?」と思ってしまうこともあります。
何事もやりすぎは良くないですが、「NGOは人件費を中抜きするな!」というのは、大変失礼な言動かと思います。なんですか?私たちはタダ働きの奴隷ですか?
(注:原さんが「人件費とるな」と主張されているわけではないです。)
NGOが儲けても、儲けはまた社会をよくするために使われる
日本のNGOの多くはNPO法人の形をとっていると思います。NPOは、Non Profit Organization、非営利活動法人です。NPOが利益を得るのは問題ありません。が、得た利益を会員に分配することは禁止されています。NPOの利益は、次の事業のためなどに利用しなくてはいけないのです。企業だと、株主に利益が配分されますよね。そこがNPO法人と企業との違いです。
なので、NGOが「中抜き」をしていると言っても、その利益は人件費になるか、他の事業に投資されます。社会をより良くするために使われています。
つまり、「中抜きダメ!ぜったい」と言っている人は、「私の寄付がNGOスタッフの人件費として使われるのは許せない」ということを言っているのと同意です。
寄付者は社会問題を自分事として考えているのか?
さっきからデータ上の70%の「人件費とるな」勢に対して一人で怒っている私ですが、実際に当会に寄付をしてくださっている支援者さんたちは、そんなことは言いません。実際に寄付をしてくださっている方の多くは、私たちNGOの職員を応援して、ねぎらってくださいます。
原さんも動画でおっしゃっていたように、国際協力の業界のお金の流れは
先進国の寄付者→NPOやNGO→途上国の貧しい人
となっています。
寄付者さんの多くは「自分では時間もないし、スキルもなくて支援をできないから、自分の代わりにNGOにやってもらいたい」と考えて寄付をしてくださっています。そのように考えている方は、NGO職員の給料を減らせなどとは言いません。人件費もちゃんととるように言ってくださいます。
人件費を払いたくない派は、「NGOがなんか途上国でやりたいことがあるらしい。そんなにやりたいんだったら、まずは自分の身を削ってやるべき。自分で稼ぐ努力をすべき。寄付を募るのはそのあとだ」と思っているのではないでしょうか。
この両者の違いは、社会問題を自分ごととして感じているかどうかだと思います。前者は「自分が解決したい問題」として途上国の貧困問題をとらえています。後者は、他人事として貧困問題をとらえており、解決したいという気持ちがないのではないでしょうか。
NGO職員の人件費を払いたいと思うか、払いたくないと思うか。そこを見ると、社会問題を自分事と考えているのか、他人事と考えているのかが見えてくるように思います。自分事と考えている人が寄付をして、他人事と考えている人は寄付をしないのではないでしょうか。
NGOは途上国の貧困をいつまでも必要としたりはしない
動画では、「貧困ビジネス」で収入を得ているNGOは、いつまでも貧困を必要としてしまうと語られています。貧困がなくなることを最終目的としているはずなのに、貧困を必要としているのは矛盾ではないか、と。
NGOの中の人からすると、そんなことはないです。もしも世界から貧困がなくなったら、別の社会問題があるところにフィールドを移すだけです。
かものはしプロジェクトという有名なNGOがあります。かものはしプロジェクトは、「子どもが売られない世界をつくる」をミッションとして、カンボジアで活動をされてきました。そして、カンボジアでは人身売買の被害がほとんどなくなりました。かものはしプロジェクトは、見事そのミッションを達成されたんですね!その後、カンボジアの事業は終了し、まだ人身売買が行われているインドに活動の地を移しています。
私の所属する地球市民の会も、ミャンマーのシャン州で農村開発をやってきました。シャン州の状況が良くなってきたため、あと数年でシャン州の事業はローカル団体に引き継ぐことが決まっています。そして地球市民の会は、ミャンマーのチン州という、さらに大変な土地で農村開発を続けていきます。
このように、地域を移動したり、分野を変えたりしながら、NGOは社会を良くするために活動を続けていきます。もしも、本当にどこにも問題がなくなったら、NGOを解散して別の仕事をすればいいだけです。
NPOやNGOは、問題が解決して必要なくなることが最終目標。一方で、企業は「ゴーイングコンサーン」、存続することが大事と言われます。企業のほうが、貧困を必要とし続けてしまうのではないでしょうかね?ソーシャルビジネスをやっている企業や、開発コンサル企業などはどのように考えているのでしょうか?聞いてみたいです。
参考ブログ:
企業とNPOの違いを実感レベルで解説!「NPOは挑戦者である」 - NGOミャンマー駐在員のハリキリノート
「企業で金儲けすべきか、NPOで社会貢献すべきか」考えている人へ - NGOミャンマー駐在員のハリキリノート
「人件費とりません」は、戦略としてはアリ
原さんが言うように、NGOの職員が外部からの収入源を作り、「寄付を人件費に使いません」というのは、NGOの戦略としてはありだと思います。私も給料を稼ぐ必要がなかった学生時代では「寄付は全額ミャンマーの孤児院に寄付します」と言っていました。今も、本業で収入を上げるには限界があるので、副業で収入を増やしていきたいと思っています。
でも、NGOで働く人全員がそうすべきとは思いません。主体的に社会問題にかかわる人を増やすためにも、NGO職員にはちゃんとした額の給与が支払われるべきだと思います。日本のNGOやNPOの職員は、最低賃金以下だったり、生活保護を受けられるレベルのワーキングプアもまだまだ多いです。
「志があれば、お金はいらない!」って思いますか?私も最初はそう思って、月給10万円で国際協力の世界に飛び込みました(今は10万円じゃないよ!)。でもね、ずーっと薄給だと「私の仕事は評価されていない」という気持ちになってくるんです。そして、同業者は国連や開発コンサルなどの高給取りエリート。途上国に駐在する大企業のビジネスマンや大使館の人たち。そんな中にいたら疲弊します。
あと、「志があれば、お金はいらない!」って、本人が言う言葉ですからね。他人がどうこう言う言葉ではないです。
まとめ
「NGO=ダメ」と思ってほしくない
NGOで働いている人たちからすると、20%程度の管理費をもらうのは当たり前の話です。しかし、一般の方からすると「NGOが中抜きしているなんて!」と思ってしまうようで、Youtubeのコメント欄でも多くのコメントが寄せられていました。原さんのオンラインサロンでもこの動画についてディスカッションしたのですが、「そうなんだー」と思った、という感想がありました。
国際協力のことをちゃんと考えている人にとっては良い動画と思いますが、「NGOはなんか怪しい」と漠然と考えている人にとっては「貧困ビジネスをやっているNGOには寄付すべきではない」と考えてしまうのではないかと懸念しています。
NGOの多くは、20%は人件費として使っていても、80%は現地のために使っているのです。効果が出るようにしっかり考えてやっている団体がほとんどです。
20%の人件費を払いたくないからって、今ある貧困を放置することは正しいですか?人件費払わずに、自分で途上国まで行って効率悪い支援をするべきですか?そんなわけないですよね。でも、動画を見て勘違いしてしまう人が出てくることを懸念しています。
原さんは、考えてもらうきっかけを提供する意味で動画を作られたと思います。NGOの人たちに「もっと考えたほうが良い」「別の収入源も作るほうが良い」と問題提起をしたかったのだと思います。なので、この動画はとても意味があります。
でも、この動画だけで終わらせてしまうと「やっぱりNGOはダメだ」と思考停止する人が出てくる懸念がありますので、こうしてカウンターブログを書かせていただきました。ただでさえ「NGOやNPOは怪しい」と思っている人がまだまだいるこの世の中ですからね・・・。
オンラインサロン「Synergy」
私は原さんが主催しているオンラインサロンに所属しています。オンラインサロンの定例会で、この動画を見ての感想を話し合うディスカッションをしました。いろいろな意見が出てきて、非常に参考になりました。このカウンターブログも、ディスカッションした内容を踏まえて書いています。
原さんのYoutubeは、国際協力に関心がある方向けの動画がたくさんアップされています。もちろん、動画を見るだけでもかなり勉強になっておすすめなのですが、原さんの動画だけを信じてしまうのも違うなと思います。
NGOの貧困ビジネスについて、原さんの動画と、私のブログを見てきました。でも、これでもたった二つの意見です。もしかしたら、開発コンサルの方や学生さんから見ると、また別の視点があるかもしれません。
原さんが主催されているオンラインサロン「Synergy」には、私のようなNGO職員や開発コンサルの方、学生さん、国際協力とは別の仕事をしている方など、さまざまな方が所属しています。年齢層も幅広いです。いろんなバックグラウンドを持つ方とディスカッションすることで、さらに学びが深まると感じています。
オンラインサロンでは、Youtubeを見るだけでは学べないところまで学べるので、迷っている方はぜひ入会されてください。一緒に世界を良くしていきましょう!
オンラインサロンについて、詳しくはこちら。
フリーランス国際協力師原貫太のオンラインサロンSynergy