NGOミャンマー駐在員のハリキリノート

ミャンマーのタウンジーという町で、国際協力をやっています。NGO活動、ミャンマーあれこれ、国際結婚育児ネタなど

途上国の環境保護活動は難しい!インレー湖のケース

ミンガラーバー(ミャンマー語でこんにちは)。

シャン州在住9年目、鈴木亜香里です。

 

前回はインレー湖の環境保護活動について書きました。

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インレー湖の環境を守るためには、保護活動をやっていくことが大事なのですが、途上国で環境保護をやっていくのは一筋縄ではいきません。今日は、国際協力の現場で直面する環境保護の難しさについて、書きたいと思います。

 

様々な関係者

インレー湖の環境汚染は、これまでの記事で書いたように、さまざまな要因が絡み合っておきています。まだ読んでいない方は、こちらを先に読んでいただくほうがわかりやすいと思います。

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インレー湖の周りにいるさまざまな人たちが、環境に悪いことをしたり、逆に環境のためになることをしていたり。ここでは、湖上・湖畔の人、山の上の人、町の人、観光客の4つにわけて、見ていきたいと思います。

 

湖上・湖畔の人

湖上に家を建てて生活していたり、湖畔の村で生活をしている人たち。多くはインダー族です。この人たちは、浮き畑に農薬や化学肥料を多投する、トイレや食器洗いなどの排水をそのまま湖に流す、観光用の工房から出る排水をそのまま流すなどで、湖を汚染しています。

 

インダー族の人たちは、他力本願なところがあります。何か村が必要としていること(たとえば、水タンクや学校校舎とか)があったら、村の皆で協力して作ろうということにはならず、まずはドナーを探します。湖上ホテルのオーナーに寄付のお願いに行ったり、外国からの寄付に頼ったり、政府からの補助金に頼ったり。いわゆる「援助慣れ」という状況です。

他の民族が、村の皆で協力して頑張ることが多いのに対して、インダー族の「援助慣れ」感は全くレベルが違います。これまで、さまざまな団体や個人がインレー湖に興味を持ち、いろんな援助をやってきたせいなのかなと思います。すべてインダーの人たちが悪いわけではないし、決めつけるのもよくないことですが、現場で活動をする立場からすると「インダー族はやりづらい」というのが、本音です。(できれば違う地域で活動したいんだけど、日本からちょっと視察に来た人とかは「インレー湖で活動したほう良い」とか言ってくるんだよね、モヤッ!)

 

まあ、そんな感じで、インレー湖の人たちは悪者や弱者にされがちだと感じています。インレー湖の人たちは、環境を壊す生活をしている人たちである。インレー湖の人たちは、環境に対する知識がないから啓蒙しなくてはならない。インレー湖の人たちは、ほおっておいたら何もできないので、援助されるべき人たちである。うんぬん。国際協力の関係者ですらも陥りがちな勘違いです。

 

でも、インダー族がいるからこそ、今のインレー湖が守られていることを忘れてはいけません。以前の記事にも書きましたが、インレー湖はCODの値が高く、日本の一番汚い湖沼と同レベルにあります。でも、目で見たら大変透き通っています。この秘密は、インダー族が水草を引き揚げているからなんです。水草を引き揚げることを、モクトリと言います。

モクトリは大変な重労働です。ボートの上なので、足場は不安定。水草は水を吸って非常に重たいです。浮き畑農業も、トマトの値段が暴落することが多く、儲からなくなってきています。今後、モクトリをする人がどんどん減ってくるのではないかと予想できます。もし、モクトリする人が減ってしまったら・・・モクトリによる酸素の供給が減り、インレー湖の水草が減り、一気に水が濁るということもあり得ます。

 

インダー族は、インレー湖を汚す原因ではなく(それもあるけど)、インレー湖を守るレンジャーなんだ!という認識を持って、彼らの活動を応援していく必要があると思います。湖畔の人たちは、どの村も植林をいっぱい頑張っているし!(っていうか、インレー湖はもともと彼らのものなんだから、外野が大きな顔していろいろ言うのはダメだと思う)。

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小舟に乗って漁をしているインダー族



山の上の人

インダー族と一緒に植林などの環境保護活動をしていると、聞こえてくるのが「俺らがいくら頑張って木を植えても、意味がない。山の上の人たちがめちゃくちゃ木を切っているから」という言葉。そう言われて山の上に行ってみると、たしかに山の上の人たちは木を切りまくっています。

彼らは、森を焼いて木をなくし、畑にします。山の上の畑は斜めになっているので、雨が降ると土壌がどんどん流れて行ってしまいます。土砂を含んだ赤茶色の水がどんどんインレー湖に流れ込んでいって、インレー湖が濁っていきます。

 

山の上の人たちは、タウンヨー族やパオ族が多いです。特にインレー湖の西側の山に住む人たちは、教育レベルも低くて、とても貧しい。何もわかっておらず、焼畑をするなと何度言ってもやめないダメなやつらだ・・・・。インレー湖の人たちは、山の上の人たちをそういう風に見ています。

 

インレー湖の環境のためには、湖周辺の人と山の上の人との心の距離を縮めて、相互理解を促進することが大事だと思います。なので、2019年3月に、湖畔村と山の上村の人たちを集めたワークショップを開催しました。

1日目は皆で湖畔村に行き、湖の汚染の様子や、インダー族の生活の様子を学びました。2日目は皆で山の上の村に行き、焼畑や生活の様子を学びました。そして、それぞれの場所で、インレー湖のために何ができるのかということを話し合いました。

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ワークショップの記念撮影。山の上の村で

そこで出た議論が、「山の上の人に焼畑をやるなと言うのは、ごはんを食べるなと言っていることと同じ」という意見です。インレー湖のことを考えると、焼畑はやめてほしい。ハゲ山に木を植えて、森を復活させたいということになります。でも、焼畑をやらなかったら、山の上の人たちは収入がほとんどなくなります。生活していけなくなります。

 

さっきも書きましたが、湖と山の上では、発展のレベルが全く違います。インレー湖は外国や政府からの関心が高いので、支援が集まりやすいです。観光業や農業のおかげで、ある程度の収入はあります。学校も多いので、教育レベルも高いです。

一方、山の上は産業がありません。学校も小学校しかないので、村の全員が小卒です。交通アクセスも悪くて、雨季は遮断されます。外国や政府からの関心が薄く、支援が集まりにくいです。

 

そんな大変な生活をしている人たちに「インレー湖のために焼畑をやめろ」というわけにはいきません。「焼畑をやめてほしいなら、その分の生活保障をしてくれますか?」という話になってきてしまうわけです。その覚悟がないなら、彼らに焼畑をやめさせることはできません。

 

町の人

インレー湖の周辺には、タウンジーという大都市(人口30万人以上)があります。町の人たちが出す風呂や台所の排水は、一度別の湖に貯まってから、川を通ってインレー湖まで流れていきます。

 

また、カローやアウンバンという大きな農業地帯もあります(ダヌ族が多い地域)。ここからの排水や土砂は、川をとおって、最終的にはインレー湖にたどり着きます。この100年程度で、カローやアウンバンの木はどんどん減少しています。飛行機から見ると、パッチワークのような畑がとてもきれいなんですが、あの畑の土や、肥料や農薬が全部インレー湖に流れていくんです。最近、このエリアでの除草剤の使用が増えているので、水草に影響を与えないか心配です。

 

この人たちは、インレー湖から少し距離があるために、インレー湖の環境問題は自分たちと関係が薄いと思っている節があります。私もタウンジーに住む人なので、人のことばかり言えませんけど。

 

町の人たちは、ゴミ拾いや植樹イベントはけっこう好きです。特に、今ミャンマーではゴミ拾いイベントはブームになっています。町の人たちが村まで行って植樹することもよくありますが、湖畔村の人がガチで植林をしているのに比べると、お遊び程度です。

楽しみながら活動していく人が増えていくことは良いことと思います。あとは、町は村よりもお金持ちが多いので、金銭的な面での支援も今後やっていくべきかと思います。そのためにも、町や農家の人たちに「インレー湖は自分とかかわりがたくさんある」と思ってもらえるようにしていく必要がありますね。

 

観光客

インレー湖の自然や、人々の生活を見に来る観光客は、もちろんインレー湖の環境を守らなければなりません。観光客が増えることで、環境が破壊されてしまったら・・・。一度しか来ない観光客にとっては、少し心を痛めるだけで済むことですが、地元の人たちの生活がかかっていますからね。

 

観光客の皆さんには、ぜひエコツーリズムをしてほしいと思います。外国人向けのホテルやレストランの中には、環境に対する配慮が全くできていないところと、しっかりできているところがあります。できるだけ、しっかり環境に配慮したところを選んで利用してください。

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また、持続的に活動をするのは観光客には無理ですから、環境のためにお金を落としていってください。10ドルの入域料はインレー湖のために使われます(環境以外のことにも使われますが)。良い活動をしているホテルやレストランにお金を落としましょう。インレー湖の環境を守る活動をしている団体に寄付することも、素晴らしい選択です。

 

ちなみに、私の所属する地球市民の会にお金を託していただくこともできます。インレー湖周辺や、チン州での焼畑を減らすために使用します。月1,000円からのお好きな金額で、毎月続けて応援していただけます。インレー湖行ったことある方に、ぜひ参加してもらいたいです。

www.terrapeople.or.jp

 

まとめ:町の人と観光客が、どこまでお金を出せるか

インレー湖の環境問題は、そこに住む人たちの生活があるので、一筋縄ではいきません。山の上の人たちの生活向上が重要になると思います。また、周りの人たちにもっとインレー湖に関心を持ってもらって、自分事として考えてもらえるようにしていかないといけないと思います。町の人や観光客が、インレー湖のためにどこまで活動に参加できるか、お金を出せるかが、鍵になってくるのかなと思います。